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ブダペスト お得意さんは不得意

2012年12月01日

 ふらっと立ち寄る「いちげんさん」では分からないことがある。ハンガリーの首都ブダペストで通訳の女性Kさん(41)が変わったことを言った。「この国では『お得意さん』になれないんです」

 牛乳アレルギーの彼女は三日おきに通うパン屋で毎回「牛乳が入っていないのはどれ?」と聞かないといけない。店員はKさんを覚えているはずだが、自分からは教えようとしない。十年以上通うマッサージ店でも毎度受けたいサービスをゼロから説明する。

 日本人には理解しがたいが、Kさんは「二十年余り前まで続いた共産主義の感覚が残っているから」と言う。当時はモノ不足で売る側が神様。店員は一様に横柄だった。

 ハンガリーの名誉のために書くが、私はホテルでもスーパーでも快適なサービスを受けた。「確かに愛想のいい接客は定着しました」とKさん。でも小中学の五年を日本で過ごした彼女には笑顔の下に昔の名残が透けて見えるようだ。「周囲の影響で若い人も同じ」と残念がる。

 こだわるのは「お得意さんづくり」に象徴される一人一人の努力が日々の仕事に満足や向上をもたらし、ハンガリー社会を前進させると信じているからだ。「仕事は楽しいってみんなに分かってもらいたい」。別れ際の言葉が耳に残る。 (宮本隆彦)

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