【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. 中東・アフリカ
  5. クウェート市 独裁被害者思い重ね

クウェート市 独裁被害者思い重ね

2012年11月25日

 クウェートの首都クウェート市で車を借り切り、北へ三十キロも走ると砂漠が広がった。気温は四〇度以上はあるか。石油鉱床の眠る砂漠は強烈な日差しに照らされ、白い海のように広がる。目指すはさらに百キロ先のイラク国境の町アブダリだ。

 走っていたのは砂漠を突き抜ける「死のハイウエー」と呼ばれるイラク国内まで続く道。イラクのクウェート侵攻を機に始まった一九九一年の湾岸戦争時、多国籍軍に破壊されたイラク軍の車両や死体が並んだという。二〇〇三年のイラク戦争時には、米英軍などがイラクへ進撃する際に使った。

 「フセインはいまでも許せない」。それまで寡黙だった運転手の男性(38)が憤りをあらわにした。クウェート人なら当然だろうと思って聞いていたらシリア出身だった。一年の半分はクウェートで働き、残りはシリアで暮らしているという。

 内戦状態が続くシリア。自宅は首都ダマスカスから遠く離れ、家族は無事だが、多くの同胞が政府軍に殺害されている状況に気が気でなく、「アサド(大統領)は気が狂っている」と吐き捨てた。

 イラク国境の検問所に近づくと、男性は再び口を開いた。「独裁者に罪のない人間が傷つけられた点はシリア人もクウェート人も同じ。だからクウェート人に共感するのさ」 (寺岡秀樹)