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ハイデラバード 自己主張避けた寛容

2012年12月29日

 取材で訪れたインド南部ハイデラバードで、車を借り切り市内中心部へ向かった。車とオートリクシャー(小型3輪タクシー)でごった返し、その合間を2、3人乗りの自転車が擦り抜ける。わずか10センチ前後でかわす離れ業。その状態が30分以上続き、ようやくたどり着いた。

 好物のカレーを食べ終え、満足した気持ちで戻っていると突然、「ギイーッ」という異音と衝撃。右車線の乗用車に接触された。運転席のドアがへこみ車体に赤色塗料が付着。

 2人の運転手は身ぶり手ぶりを交え、口角泡を飛ばし始めた。約1分後、ふいに2人は互いの車に戻った。もう終わったの?と驚きながら運転手にやりとりを聞くと、相手は脇見運転を認めたが、「自分の車も傷ついたからおあいこだ」と言ってのけたという。

 「相手は保険に入っていなかったの?」「修理代を要求しなかったの?」と矢継ぎ早に聞くと、「大きな傷じゃないからいいよ。ここじゃ、みんなそうだよ」と目を細めた。

 寛容というか奥深いというか、自分が狭量なだけなのか…。ただ、カレー店を探すため何十分も一緒に歩いてくれた運転手の優しさを思うと、早く私を送り届けることを優先し、あえて事故に目をつむった可能性がある。いや、そうに違いないと確信している。

 (寺岡秀樹)