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ジェニン 10年…惨劇の傷なお

2012年12月30日

 小さな街の中心に掲げられた、大きな看板に息をのんだ。イスラエルへの抵抗運動で命を落としたという、50人以上の若者らの顔写真が並んでいる。

 パレスチナ自治区のヨルダン川西岸ジェニン。2002年、パレスチナ武装勢力の拠点だとしてイスラエル軍が侵攻に踏み切った。多数の住民らを虐殺したのではないかとの疑惑が、国連を巻き込み世界を揺るがした。

 あれから10年。破壊された建物群は再建され、街並みはひっそりしていた。抵抗運動に身を投じた若者らの写真はどれも色あせ、歳月の経過を物語る。

 地元の有力者によると、自治政府側は最近、街の治安対策の一環として、武装勢力の元メンバーら数十人を、武器の所持などで逮捕した。だが、中には手続きが不透明なまま半年間、拘束が続いている例もあるという。

 ある拘束者の母親を自宅に訪ねると、1人で絶望的なハンガーストライキをしていた。息子は帰ってくる見通しすら分からない。

 「彼らはイスラエルの占領に立ち向かった、抵抗の元戦士なのに不当な扱いを受けている。もし、過ちがあったとしても、司法手続きは迅速に行うべきだ」と有力者は言う。

 イスラエルとの和平交渉は、遅々として進まない。時は流れても、多くの人々が占領下で人生を翻弄(ほんろう)され続けている。 (今村実)