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バトンルージュ 20年…心の窓新たに 

2013年01月14日

 教会の窓が祭壇に光を注いでいた。

 20年前、留学先の米ルイジアナ州バトンルージュで射殺された服部剛丈(よしひろ)君=愛知県立旭丘高2年、当時(16)=の追悼ミサ。事件直後にもミサが営まれた教会で、母美恵子さん(64)=名古屋市港区=は「あの丸い窓のことしか覚えていないんです」と話した。

 服部君はハロウィーンパーティーの訪問先を間違え、家主に撃たれた。無抵抗の日本人少年の犠牲は全米にショックを与えたが、家主は「正当防衛」で無罪。美恵子さんと父政一さん(65)は今も銃規制を訴え続けている。それでも米国では「射殺」「乱射」のニュースが絶えない。

 「ちょっと疲れちゃったかな」。美恵子さんは20年の活動をそう振り返る。「長かった」とも感じている。ただ、最後まであきらめるつもりはない。「だって、小さな力でもそのうちに芽が吹いて、大きな力になっていってほしいから」

 バトンルージュは緑が豊かだ。美恵子さんは今回、それに初めて気が付いた。「気持ちにゆとりが出てきたからかもしれません」。息子の命が奪われた町を、やっと冷静に眺められるようになった。

 参列者が祈りをささげた教会の外で、小鳥がさえずっていた。悲しみの記憶しかなかった丸い窓の外に、きれいな青空が広がっていた。 (青柳知敏)