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ベルリン 名演奏国境を超えて

2013年01月18日

 そのコンサートは、指揮者の一振りではなく、客席から響く「ハッピーバースデー」の歌声で始まった。

 11月15日夜。ベルリンのフィルハーモニーホールの聴衆から祝福されたのは、70歳の誕生日を迎えたピアニスト、ダニエル・バレンボイム。ステージ上で胸に手を当てて、客席やオーケストラの拍手に応える。ホールを満たした親密な空気から、現代を代表する音楽家への敬愛が伝わってきた。

 ロシア系ユダヤ人の両親の下にアルゼンチンで生まれ、10歳でイスラエルに移住した。音楽的な経歴は欧州と米国で積み重ねた。指揮者としても名高い。

 イスラエル国籍を持ちながら、母国の対パレスチナ強硬策を批判。「イスラエルの安全は爆弾ではなく、パレスチナ人に受け入れられることでしか実現しない」と訴える。この日はピアニストとしてベートーベンやチャイコフスキーのピアノ協奏曲を演奏。聴衆は総立ちで拍手を送り、カーテンコールとアンコール演奏が繰り返された。

 「音楽には国境を超える力がある」と彼は信じる。コスモポリタン(世界市民)を体現する圧倒的な存在感に裏打ちされた演奏に身を委ねるとき、その言葉は大きな説得力を持って迫る。

 この夜、ホールを包み込んだ拍手は、どこまでも温かかった。 (宮本隆彦)

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