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ニューオーリンズ ジャズの街 癒えぬ傷 

2013年02月28日

 その場所を訪れたのは7年ぶりだった。超大型ハリケーン・カトリーナ襲来から約7年半後の米ルイジアナ州ニューオーリンズ。最も被害が大きかったとされる同市東部の第9地区に、人影はまばらだった。

 再建された住宅の間には雑草が生い茂る空間が広がり、かつて人家があった気配だけが残っている。ハリケーン前にはほぼ50万人近かった人口は一時、3分の1に減少。復興事業が進むとともに住民は戻ってきたが、今もピーク時の3分の2にとどまっている。

 町の中心部の繁華街フレンチクオーターの広場では、黒人バンドがにぎやかに演奏を繰り広げている。ディキシーランドジャズの響きが、フランス植民地時代の面影を残す町並みによく似合う。

 変化を感じたのは夜のバーボンストリートだ。かつてジャズバンドが生演奏を繰り広げていた店が軒並みロック音楽とダンスのクラブに変わっていた。にぎやかだが、まるで六本木か渋谷のようだ。

 あの時、運河の堤防を決壊させた濁流は、家と住民、車を押し流した。全壊家屋の壁にペンキで書き付けられた遺体の数を示す数字を見て衝撃を受けたことを思い出す。ジャズの街の何かがあの災害で変わり、今もその傷痕が癒えていないのだろう。ここもまた被災地。心の中で復活を祈った。 (久留信一)