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カイロ 「春」の現実しぼむ夢

2013年03月27日

 確かに、汚職がはびこる不公正な社会だった。「だけど、暮らしは今よりましだった」。カイロのタクシー運転手(38)が、複雑な胸の内をつぶやいた。

 エジプトのムバラク独裁政権が崩壊したのは、2011年2月。2周年を前に、今のイスラム政権の打倒を求めるデモに、参加していた。「きっと生活が良くなる」と抱いた期待はしぼんだ。傍らに妻と幼い子が2人。

 タクシーの営業は、売り上げの中から車両所有者に賃貸料を支払う仕組み。以前は1日200エジプトポンド(約2800円)~300ポンドの売り上げから100ポンドを所有者に渡していた。

 それが、物価上昇で所有者への支払いは150ポンドに。治安の悪化で利用客は減少した。ガソリン代を差し引くと、手元にいくらも残らない。「1日中、働きづめでないと生きていけない」と話す。

 隣の男性会社員(42)が、まくしたてた。

 「多くの若者の命が犠牲になったが、何も成し遂げられていない。イスラム勢力が利益を手にしただけだ」

 こんなはずではなかった-。いら立ちと不満が、社会に漂う。デモに便乗して、一部がすぐ暴徒化したり、覆面の無法集団が地下鉄を止めたりする事件の頻発が、その表れだ。

 「アラブの春」という甘美な響きは、日を追って厳しい現実にのみ込まれている。何とも切ない。 (今村実)