2013年03月25日
鳥のツルには、すました美男美女という先入観があった。日本で自然の姿を見た経験がないせいだろうか。韓国北部・鉄原(チョルウォン)郡の越冬地を取材し、そのイメージが変わった。
ツルのねぐらは、北朝鮮との軍事境界線から南北各2キロの非武装地帯の中。鉄条網で隔てられた「自然の楽園」だが、警戒心の強い彼らは川の中に立ったまま眠るという。
だが気温は氷点下20度前後。川面が夜間に凍り付き、細い足が抜けなくなるツルもいると聞かされ、気の毒だが笑ってしまった。
近くの保護施設では、目隠しをされた1羽が男性職員の胸に静かに抱かれ体重計に載せられていた。落ち穂を食べる田で寄生虫に感染し、下痢で飛べなくなっていたという。
1メートルほどの体で正常なら5キロはある体重が3キロまで落ちていた。「目隠しで視界を遮ると、おとなしくなるんですよ」とヒゲの職員。神妙に息を殺し、より細くなった体を横たえる姿はいじらしく励ましたくなった。
名前にも親近感を覚えた。ツルは韓国語でトゥルミ。日本語と似ている。ある研究者は「鳴き声が由来だからでは」と笑った。どこか物悲しく、甲高い声は確かに「トゥルー、ツルー」とも聞こえる。韓国語ではトキの名前も、「ターオッ」という鳴き声に近いタオギというから説得力があった。 (辻渕智之)