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ベルリン 終わりなき検証託す

2013年04月14日

 「ナチスが私をユダヤ人にしたのです」。ホロコーストを生き延びたユダヤ人の女性作家インゲ・ドイチュクロンさん(90)は、ベルリン市内での講演会を意外な言葉で切り出した。

 ナチスが権力を掌握し、ユダヤ人への迫害が始まった1933年春、10歳の彼女は自分がユダヤ人だと初めて知らされた。伝えた母は「あなたは少数派なの。だから自分の身は自分で守りなさい」と諭した。

 43年から終戦まで彼女と母はベルリン市内のあちこちで隠れ住み、ナチスの追及を逃れた。強制収容所送りの危険を冒して彼女たちをかくまい、食料や衣服を運んだドイツ人がいたおかげだ。

 一方で大半のドイツ人は蛮行に協力し、黙認した。自らの体験を書き、語り続けてきたドイチュクロンさんは「なぜあれほど短期間にナチスが強大な力を得たのか、今でも分からない。もっと調べる必要がある」と話す。

 ネオナチ政党が非合法化されない現状にいら立ちつつも、「今のドイツは生きた民主主義」と反省を深めた戦後の歩みを評価する。

 あなたがこの世を去ったらナチズムの記憶は風化してしまうのでは-。質疑応答で問われた彼女は希望を込めて答えた。「ナチスの検証はこれからも必要だし、続けられると信じている」(宮本隆彦)