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ニューヨーク ライト当たらずとも

2013年04月20日

  今年のアカデミー賞の作品賞を受賞したイランでの米大使館人質事件を題材にした米映画「アルゴ」(ベン・アフレック監督)。

 発表から数週間後のニューヨークで、この事件の功労者の1人、当時のカナダ大使ケニス・テイラー氏と妻のパトリシアさんの話を聞く機会があった。

 テヘランに駐在していたテイラー夫妻は、大使館から自力で逃げ出した6人の米外交官を自宅にかくまい、偽のカナダパスポートを渡し、脱出を助けた。

 その後、事件でのテイラー氏の骨折りを伝えたカナダのメディアは、「米国の手先」だと酷評。隣国の言いなりになったスパイだと手厳しかった。

 映画の一幕にも夫妻役はちょっぴり登場するが、そこでの主役はアフレック扮(ふん)する中央情報局(CIA)工作員。

 今では、夫妻の活躍を知るカナダ人にはそれが不満らしいが、当の本人たちは「映画だから、実話とは切り離して考えて」と淡々とした表情だった。

 妻のパトリシアさんは、突然、自宅に住み始めた米外交官を不審に思っても、外部に情報を漏らさなかったイラン人のスタッフについて「彼らはすごく忠実だった」とも。

 映画の世界ではたった1人に集約されがちなヒーロー像。実際は、多くの功労者に支えられている。 (長田弘己)