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ソウル 核開発者の妻ため息

2013年04月17日

 北朝鮮で夫が核開発に携わっていたというソウル在住の脱北女性から話を聴いた。

 夫は1990年代前半、勤務中に事故に遭って長期入院した。詳しい説明はせず、「放射線を受けた」とだけ語った。その後、全身の皮膚がむけ、歯も全部抜け、統合失調症を患ったという。

 家は科学者が集住する平壌の一角にあったが、夫はもともと、半年に1度ほど帰るだけだった。入院は事故後かなりたって、党からの連絡で知った。退院後も体の痛みを訴え、家で床に伏したきり。以前とは別人のようで会話もしなくなった。

 夫は日本生まれの在日2世。10代のころ帰還事業で父母と北朝鮮に渡った。彼女は「日本帰りだから逆境に弱く、無気力になったのかとまで考えた」と、心の中で夫を責めた当時の自分を悔やんだ。

 夫は不自由な北朝鮮の社会体制に疑問を持ち、日本をいつも懐かしがっていたらしい。女性は、夫が日本で子どものころ「健康優良児表彰」を受けた際の笑顔の写真を見たこともあると話した。

 取材の別れ際、彼女は一緒に脱北した息子の写真を取り出した。「背が高くてスポーツマンで、美男子で。それに賢そうでしょ」。そう自慢した後、なぜか、ため息をついた。「だんなによく似ているんですよ」。写真の上をそっと指でなぞった。 (辻渕智之)

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