2013年04月21日
ニューヨークで、多くの人がコーヒーを手に持って歩いているのは、トイレのためではないか。ふと、天啓のようにひらめいた。コーヒー片手にさっそうと街を行く姿は、定着している。しかし、なぜ飲み物を手に持って歩くのか。そんな疑問を持っていた。
ニューヨークの公衆トイレの少なさはよく知られている。街中で苦労して探した経験を持つ人も多い。そんな人にとって、トイレのあるコーヒーチェーン店はありがたい存在だ。ただ、何も買わずにトイレだけ借りるわけにはいかないので、コーヒーを頼み、しかるべき後にそれを持って街を歩く…。そんな無理な仮説を思い付くほど、トイレが少ない。
ネットで検索すると「この街でどうやってトイレを探すか」というページがずらりと出てくる。GPS(衛星利用測位システム)を使って直近のトイレを紹介してくれる有料アプリすらある。
あるとき、銀行でトイレを借りようとした。「うちにはありませんが、隣のデリ(総菜店)にあります」と言われて戸惑った。窓口の青年は「何も買わなくても大丈夫。うちのお客さんに、いつも勧めているんです」とほほ笑む。
仰せに従うことにしたが、何も買わないのは気まずい。5分後、コーヒー片手に街を歩いている自分がいた。 (吉枝道生)