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パトン島 貧しい暮らしのよさ

2013年05月14日

 タイ南部パトン島で暮らす海洋民族モーケンの家に取材で泊まった夜のこと。双子の姉妹ジャリヤーさんとガンヤラーさん(48)が9年前のスマトラ沖地震の際、本土の避難キャンプで味わった数々の初体験を愉快に披露してくれた。

 「そのとき初めて炊飯器や扇風機を見た。炊飯器に米をといで入れ、皆でじっと待ったけど、ウンともスンとも言わない。だれも電気を入れるとは思わなかったのよ」。扇風機は家でも使うようになったが、ご飯は今でも鍋で炊いている。

 缶詰やかき氷も初めて食べた。「日本が送ってくれたツナの缶詰はおいしかったけど、ずっとチキンだと思っていた。雪のアイス(かき氷のこと)は頭が痛くなる。でもまた食べたいね」

 最も忘れられない味は本土で働く息子や娘がごちそうしてくれた焼き肉だ。「あれもおいしかった。ただ、生まれて初めてのレストランは恥ずかしかったね」。2人は懐かしそうにうなずいた。

 島の学校が減ったこともあり、約400人の島民の4分の1は本土の復興住宅に移住したが、2人は島が好きだからと戻った。島の暮らしは相変わらず不便で貧しいが「豊かになって暮らしに差がつくと、仲の良い島民同士で争いごとが起きるでしょ。今のままがいい」。2人はそうほほ笑んだ。 (杉谷剛)