2013年07月29日
アンコウが干された漁港。「中国の漁船が恨めしい」。漁民から出たのは対岸の北朝鮮の悪口ではなく、不法操業を繰り返す中国漁船への愚痴だった。
韓国の西北端、黄海に浮かぶ白リョン島(ペクリョンド)を訪ねた。本土の仁川(インチョン)からフェリーで4時間。一方の北朝鮮までは13キロ。その間にある海上の南北境界線一帯で「漁夫の利」を得ているのは中国漁船なのだ。
南北の漁船が近づけない境界線のすぐ南で漁をし、韓国の警備艇が近づけば線の北側に逃げる。警備艇が去れば、戻る。線の北側にとどまるのは、北朝鮮の軍人に金を払って認めてもらっているという。「一帯は好漁場。わしらも近づきたい」。漁民はぼやいた。
漁村で会った中年女性は私が日本人と分かるや「おばあさんたちに何をした? 最近の政治家の暴言は何なの?」。慰安婦問題から日本糾弾を始めた。
夜、飲食店の主人の話。島の方が競争相手が少なく、稼げると思って本土から来た。本土に残る家族は心配するが、自分は怖くないという。「危険だとあおるから観光客が来なくなる。むしろあんたらマスコミの方が怖いよ」とこぼした。
南北が対峙(たいじ)する最前線の島。印象に残ったのは意外にも、中国と日本、マスコミへの批判だった。60年間の長い分断や緊張が日常化しすぎたせいかもしれない。(辻渕智之)