2013年08月08日
その黒人女性はそこで25年間、独り抗議活動を続けている。米南部テネシー州メンフィスの国立公民権博物館。公民権運動の指導者マーチン・ルーサー・キング牧師が1968年に暗殺された黒人専用モーテルが保存されている。
ジャクリーン・スミスさんは通りを挟んだ路上の一角に陣取り、「施設は貧しい人たちのために使うべきだ。牧師は博物館なんて望まなかった」と訴えている。73年からモーテルの一室に住んでいたが、博物館への改装に伴い88年に強制退去させられた。
7月の暑い昼も同じ場所にいたスミスさんは「カラオケをつくったのは日本人でしょ」と「上を向いて歩こう」を歌い始めた。81年に黒人女性デュオのカバーで大ヒットした英語版だ。こちらも一緒に口ずさんだ。
博物館は牧師が最後に過ごした306号室の当時の様子を再現。博物館の一部になっている向かいのビルから狙撃犯の白人と同じ目線でモーテルを見れば米国現代史の暗部に身震いする。年間25万人が訪れるという。
その主張には賛否両論あるが、スミスさんは今や「非公認の付属展示」(地元紙)と評される。開館以来の抗議活動を容認してきた博物館の寛容さにも驚く。これからもそうであってほしい。彼女の目から涙がこぼれないように。(竹内洋一)