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パリ 爆笑呼ぶ地下鉄劇場

2013年08月15日

 毎日便利に使わせてもらっているパリの地下鉄だが、言いたいことはいくつもある。

 駅構内に時々ひどく汚い場所があるのはなぜか。構内にすりがいる。「今2号車にすりが入りました。気を付けて」という運転士のアナウンスは親切なようでどこかおかしくないか。自動改札の上を跳び箱の要領で越えていく若者。私の仕事ではないと傍観する職員がいるのはなぜか。まじめに料金を払う人が不愉快になる。

 そんな数々の不満は笑いとともに吹き飛んだ。胸に地下鉄のマークをつけたスーツ姿の若い男性職員が2人。車両に乗り込むと手持ちのスピーカーから曲を流す。当地の音楽家セルジュ・ゲーンズブール「ジュテーム、モアノンプリュ」だ。

 妖しいメロディーと歌に乗り、あろうことか、金属製の手すりに絡み付きながら、服を脱ぎ始めた。ストリップの動きだ。乗客があっけにとられると同時に、彼らが取り出したのが切符。スピーカーからは「切符はちゃんと買いましょう」。

 車両は爆笑に包まれ、拍手がわき起こった。たぶん非公式のキャンペーンだろう。多くの人が疑問に思う無賃乗車の放置を逆手に取ったブラックジョークのようにも思えた。パリに開通して100年余り。うんざりすることはたくさんあるが、裏返しの自由さは大好きだ。(野村悦芳)