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束草 笑って川を渡る日は

2013年08月20日

 イカの胴体にご飯を詰めればいかめし。牛ひき肉や豆腐、野菜などを詰めて蒸せば、韓国北東部・江原道束草名物の「オジンオ(イカ)スンデ」になる。輪切りにし、少ししょっぱいたれをつけて食べる。

 イカをかみ切って、柔らかめのハンバーグ状の詰め物に歯がめり込んでいく感触が楽しい。海の味と肉のうま味が口いっぱいに広がる。

 オジンオスンデを出す店が並んでいるのは「アバイマウル」と呼ばれる、束草港近くの小島。ここには朝鮮戦争の際に北朝鮮・咸鏡地方から避難してきた人や、その子孫が多く住む。北朝鮮では年配の男性を、尊敬を込めてアバイと呼ぶ。

 小島と陸地を結ぶ橋もあるが、住民らは今も、「ケッペ」と呼ばれる渡し舟を利用している。動力がない台船を、係員と乗客が一緒にワイヤを引っ張り、約50メートル先の対岸に向かう。

 先日みた「48m」という映画では、中朝国境の鴨緑江を渡って北朝鮮脱出を図る住民が、警備兵に銃撃される場面が描かれていた。

 命懸けで渡ろうとした川幅48メートルは、ちょうどこれぐらいだろう。そこに渡し舟が営業できる日がくるだろうか。アバイマウルで北朝鮮を感じたためか、「ケッペ」をこぎながらの2、3分間に、そんなことを考えた。(篠ケ瀬祐司)