2013年08月21日
ドイツから黒海に至る大河ドナウ。この夏の初め、上流域で大雨による洪水が起きた。オーストリア国境のドイツ・パッサウでは500年ぶりの記録となる水位上昇で旧市街が水没するなど、流域で大きな被害が出た。
時に猛威を振るうが、常の姿は中東欧に恵みをもたらす母なる川。その始まりがドイツ南部ドナウエッシンゲンにある。シュワルツワルト(黒い森)から流れ出た2つの川が町はずれで合流し、ドナウ川になる。
暑い夏の日、合流点を訪れた。2つの流れがぶつかる幅20メートルほどの水辺には、釣りをする少年や犬に水遊びさせるお年寄り。ドナウの誕生を見に来る観光客も絶えない。
遊歩道入り口の案内板によると、合流点の三角州に「Donau 2779」と河口までの距離を刻んだ石があるはず。ところがいくら探しても見当たらない。一緒に探していた中年夫婦や自転車のおじさん3人連れは「洪水で流されたのだろう」とあきらめて帰ってしまった。
写真を撮りたい一念で数百メートルを引き返して看板をよく見ると、石があるのは三角州の対岸。1キロほど回り道をしてようやく対面できた。
見逃した中年夫婦らも、洪水がなければ早合点せず、誤解に気づけたかもしれない。これも小さな洪水の被害だろう。 (宮本隆彦)