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九フン 名作の舞台「神隠し」

2013年08月30日

 台北からバスで45分。台湾北東部の九フン(きゅうふん)を訪ねた。1989年のベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した、台湾の大ヒット映画「悲情城市」の舞台となった町だ。

 映画は、日本による植民地統治からの解放後に激しく揺れた台湾社会を描いた。国民党政府が47年に台湾人の抗議行動を武力で鎮圧した2・28事件の実相にも迫る内容だ。

 東シナ海を望む山腹に瓦ぶきの家が立ち並ぶ美しい映像は、町中にぶら下がる赤ちょうちんと合わせ、どこか懐かしさも漂わせていた。昨年、十数年ぶりに再び映画を見て、必ず足を運ぼうと決めていた。

 製作者側が公式に認めたことはないらしいが、九フンは宮崎駿監督作品「千と千尋の神隠し」のモデルになった町との説が広がり、日本での知名度が一躍高まった経緯がある。今回、地元旅行会社が企画するナイトツアーを利用して現地に向かったが、3台の大型バスは約170人の日本人観光客でぎっしりだった。

 ガイドさんの案内はずっと「千と千尋」のゆかりの場所に関する説明ばかりだった。ツアー参加者には、「悲情城市」を知らない若い人も多くいた。

 「せっかくの機会なんだから、台湾を知るために、もう一歩踏み込んだガイドさんの説明があれば」と惜しかった。 (城内康伸)