2013年09月25日
米デトロイトで育ったヒップホップ界のスーパースター、エミネムの半自伝的映画「8マイル」は好きな映画で、何度も見た。
財政破綻したこの街で住人たちと話していると、必ず出てくるのが、この「8マイル」という言葉だ。たとえば、かつて薬物中毒だった黒人男性タリーさん(67)。「市が破産したって騒いでいるのは、8マイルより向こうの人たちだよ」。そういう使い方をする。
街には6マイル、7マイル、8マイルという無味乾燥な名前の道が平行に走る。8マイル・ロードより先は、白人が中心の裕福な地域。そして、8マイルより数字が少ない一帯が、主に黒人が住む貧しい地域、と分けられている。「8マイル」という言葉が持つ意味は重く、深い。
8マイル・ロードから7マイル側に折れると、廃虚が並ぶ住宅地だ。落書きをされた朽ちた家々に、夏草が生い茂る。ぶらぶら歩いていると、住人たちがいぶかしげな視線をぶつけてくる。
タリーさんは言う。「この辺は50年前から変わらないよ」。荒廃は昔から。突然悲劇が襲ってきたわけではない、という。「ドラッグと同じ。ここでやってても、誰も問題になんかしない。でも、8マイルの外に広がると騒ぐ。そういうもんだよ」。そう説明してクスクスと笑った。 (吉枝道生)