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石家荘 薄れる食中毒の教訓

2013年09月19日

 5年半ぶりに訪れたその場所は、荒れ果ててはいたものの入り口の表示は当時のまま残っていた。「河北省食品進出口(集団)公司 天洋食品廠」。中国製ギョーザ中毒事件のギョーザを製造した工場跡地だ。事件の主犯の初公判を取材するため久しぶりに石家荘市を訪ねた。

 街中は高層マンションが林立し、地下鉄工事で道路が封鎖され渋滞を引き起こすなど活気に満ちていた。工場跡地周辺も変貌していたが、跡地の一角までたどり着くとすぐ分かった。まだ開発が行われていないためか、当時の雰囲気がそのまま残っていたからだ。

 中国の食品に対する不信感を高めたこの事件発覚時、工場の入り口で何時間も張り込み、出入りする関係者を追いかけ回した記憶がよみがえる。日本向け専用の食品工場だったこともあり、工場側は製造管理の厳格さを強調。公安当局は日本での混入の可能性すら指摘した。

 事件はその後元従業員が逮捕され、待遇への不満が犯行の動機と結論づけられた。工場も閉鎖され中国食品の輸入額はいったん落ち込んだが、事件の記憶が薄れるとともに再び増加しつつある。

 われわれは事件で何を学んだのか。工場跡地と同じように、食の安全に対する反省と教訓も取り残されているような気がしてならない。 (新貝憲弘)