2013年10月03日
カリブ海に面したメキシコの都市カンクン。セントロと呼ばれる市街中心部のメルカド(市場)は、名前も知らない南国の果物や野菜が甘い香りを路地いっぱいに漂わせ、昼下がりの気だるい雰囲気をいっそう強く印象づけていた。
米国と国境を接するメキシコは、ペソという自国通貨がありながら、米ドルも同様に使える。雑貨店で値段交渉がペソで始まればペソで払うし、ドルで持ち掛けてきたらドルで払う。時には最後の支払いになった段階でドルとペソを入れ替えてみる。不満顔の店員が「それはないですよ」と、やり直しになることもあるが、そのときの気分で財布からドルを出したり、ペソを出したりと面白い。
通貨は国家の主権そのもの。国民の国への信頼がお金の価値を支える。ここでは、圧倒的な信用度を誇るドルを前に、あっけらかんと主権が侵害されている経済の冷徹な現実を目の当たりにした。
その米国だが、金融政策がジワリと変化しようとしている。ここ数カ月、為替市場ではドルが強くなり、ペソが弱くなる動きが顕著になっている。
タクシーから降りるとき、「チップはドルとペソどっち?」と聞いてみた。運転手さんはドルを受け取り、満面の笑みで「グラシアス(ありがとう)」。やはりドルは強かった。 (斉場保伸)