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ニューヨーク 思い思いの追悼式典

2013年10月30日

 2001年9月の米中枢同時テロから12年。ニューヨークの「グラウンド・ゼロ」で追悼式典が行われた日は風がなく、早朝から蒸し暑かった。噴き出る汗をぬぐいながら、犠牲者の名前が次々読み上げられるのを聞いた。

 初めてその場に身を置いた者にとっては、日本での「追悼式典」という言葉のイメージと大きく異なる雰囲気が印象的だった。ネクタイをしている人などほとんどいない。Tシャツ姿が多く、サングラスも珍しくない。

 かつてはあった政治家のあいさつも今や一切ない。計6回行われる黙とうのほかは、遺族が4時間以上かけて犠牲者全員の名前を読み上げていくだけだ。

 「私の息子ケニー。今も愛してる。会いたい」「めいのマリーン。いつも心の中にいるよ。絶対に忘れない」。名前とともに、家族からの言葉も挟み込まれる。英語以外での呼びかけもあった。

 参列者はその間、思い思いの服装で、思い思いの場所に立ち、あるいは座り、聞き入っている。周囲を自由に歩き回ったり、肩を抱いて話し合ったりする姿もある。

 夫ウォルター・マツザさんを39歳で失ったデニスさん(46)は毎年ここに来ている。「ここにいるみんなが好き。みんなと会えるのが好き。ここに来ると落ち着く」とほほ笑んだ。 (吉枝道生)