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パリ 世話いらずの旅の友

2013年10月28日

 リンゴをかじるときのあの「シャキッ」という音がかすかに聞こえた。深夜の自宅。机の上にあるプラスチックの箱にいるカタツムリがえさのニンジンをかじる音だった。

 ワインで有名なブルゴーニュ地方のエスカルゴ養殖場を訪ねた。20万匹が原っぱのような場所にほぼ放し飼いの状態で育てられていた。べたっとくっつくと体長5センチを超える堂々としたやつばかりで驚いた。「静かな生き物ですよ。世話も実に簡単で」と経営者は教えてくれた。

 どうやって育てるのか、餌は何か。そもそもなぜフランス人はこれを食べるのか。疑問がわき上がり、無性に飼いたくなった。経営者にお願いして、もらったカタツムリ2匹は、そうして机の上にやってきた。

 石器時代にさかのぼるエスカルゴの歴史は実に興味深い。大航海時代には、生きたカタツムリを積んだ船があったそうだ。餌となる草を与えるくらいで特別な手入れがいらず、暴れることもない。旅の友にぴったりの沈黙のタンパク源だ。

 口内に、軟らかい体に似合わない無数の鋭い歯があるということは飼い始めてからネットで知った。「シャキッ」という音と時折、殻同士が触れ合う乾いた音を聞きながら、海に出る大昔の船を想像した。

 (野村悦芳)

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