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ベルリン 音楽に囲まれた地区

2013年11月06日

 日本ならば、さしずめ歌舞伎の演目にちなんだ「勧進帳二丁目」とか「忠臣蔵四丁目」といったイメージだろうか。

 ベルリン南郊のワンゼー駅近くに、ドイツが生んだ作曲家ワーグナーのオペラにちなんだ名前の通りが密集している。ドイツでは「△△通り□番地」という具合に住所を表すから、冒頭のようなたとえになる。

 「ワーグナー地区」とも呼ばれるこの街区は、緑に包まれた広い敷地に石造りの邸宅が立ち並ぶ。駅前のメーンストリートは、上演に四夜もかかる超大作「ニーベルングの指環」にちなむ「ニーベルンゲン通り」。オペラの題名そのままの「ローエングリン通り」や、騎士と王妃の悲恋を描いた作品の主人公名を借用した「トリスタン通り」と「イゾルデ通り」もある。

 由来を調べると、今から108年前にこの場所を宅地分譲した業者が市に申請して名付けたと分かった。重厚なワーグナー作品にあやかり、物件の高級感を出そうとしたのかもしれない。

 取材の過程で区役所の土木担当者が面白いことを教えてくれた。古くからの通りは男性の名前に由来するものが多いため、新規の命名は女性の名前に限っているのだという。こんなところでも男女平等を徹底するのがドイツらしい。

 (宮本隆彦)