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カイロ 政情の影響犠牲祭に

2013年12月24日

 「神は偉大なり!」と発し、職人が雄羊の喉を包丁で素早く切った。大量の血が床に流れ、羊は絶命。みるみる解体され、数十キロの食肉に変わった。

 立ち会うと食や命のありがたみを実感する。

 イスラム教の犠牲祭が10月中旬、エジプトの首都カイロにも巡ってきた。多くの家庭で、羊や牛をほふるのが習わし。肉を3等分して、家族で食べるだけでなく、親族や周囲の貧しい人々に配る。

 私も毎年、生きた羊を購入。食肉店で処理してもらい、支局のスタッフやお世話になった人に配っている。

 だが、今年は政変の影響でちょっとした異変が起きた。飼料や輸送費の値上がりで羊は価格が4割上昇したとの報道も。購入した羊は1頭2500エジプトポンド(3万5000円余)に跳ね上がっていた。

 分割払いや、購入を断念した人も多かったようだ。知り合いのエジプト人は「例年のこの時期は、近所じゅうで犠牲祭用に買った羊や牛の鳴き声が響き、夜は眠れないほど。今年は静かだった」。

 解任されたモルシ前大統領の出身母体、イスラム組織ムスリム同胞団は、犠牲祭で貧困層に食肉を配り、支持を広げていた。その風景が街から消えた。

 政権移行中で、経済回復が急務のエジプト。来年の犠牲祭は、食卓に活気が戻っているだろうか。(今村実)