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サラエボ 痛々しい内戦の傷痕

2014年01月14日

 ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボから1時間ほど車を走らせた山中。渓流を縫うように走る道路沿いに、焼け落ちた民家が点々と連なっていた。

 「戦争の時、住民が戻って来られないように放火されたのです」と地元出身の通訳の女性(38)。自身も家を焼かれ難民生活を経験したという。

 戦争とは旧ユーゴスラビア連邦の解体に伴い、1990年代前半にボスニアで起きた内戦のことだ。イスラム教徒のボシュニャク人、セルビア正教のセルビア人、カトリックのクロアチア人の武装勢力がそれぞれの支配地域を維持、拡大するため戦った。

 旧ユーゴ時代に3民族が仲良く暮らした町で、主に多数派の民族がほかの民族を追放、殺害する「民族浄化」が起きた。その徹底のため追い出した住民の家を燃やしたのだ。軍事的には無意味な「破壊のための破壊」を目の当たりにして、この戦争の愚かさが胸に迫った。

 内戦終結から約20年。旧ユーゴ諸国では、欧州連合(EU)への加盟やその準備が進む。「もう戦争の心配はないね」。慰めのつもりで通訳の彼女に声を掛けると、思わぬ言葉が返ってきた。

 「この前の戦争だってユーゴ時代には想像もできなかった。もう戦争は起きないと信じることが、私にはできない」(宮本隆彦)