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雉岳山 仲間たちに届いた声

2014年01月16日

 韓国中部の雉岳山(チアクサン)で不思議な体験をした。紅葉した山から、せみ時雨のような音がシャーシャーと聞こえるのだ。朝晩は冷え込むのに、セミか秋の虫が鳴くのかと驚いた。

 周りの韓国人客に尋ねると、「音が聞こえない」。だが同行した日本人は聞こえるという。散策路の案内所で環境レンジャーの若者2人にも尋ねた。

 彼らは耳を澄ませて「確かに聞こえますね」。ネットで虫の声を検索し始めたが、似た声は見つからず「次までに調べておきます」と苦笑い。音の正体は分からなかった。

 韓国語には日本語の「お」と「え」に近い別の音があるが、日本人には本当に聞き取りにくい。成育環境が影響するのだろう。

 翌日、脱北者の知人女性が通うソウルの通信制大学で学園祭があり、彼女はのど自慢に出た。2年前、彼女は脱北後に到着した韓国の空港で見た「歓迎します」という看板に感激したと笑った。しかし1年前。「韓国人は信用できない。私たちに無関心で不安や苦しみを聞いてくれない」と暗い顔をみせた。

 今回、歌ったのは北朝鮮の歌「パンガプスムニダ」。お目にかかれてうれしいです、の意味だ。歌い終え、仲間と歓声を上げて写真に納まる姿は印象的だった。初めは聞き取りにくかった声が仲間たちに届いたのが分かった。(辻渕智之)