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アモイ 「廃虚」時の流れ映す

2014年01月28日

 周りの美しい洋館とは、対照的な廃虚だった。中国福建省アモイ市の沖合に浮かぶコロンス島。かつて各国領事館が置かれ、外交官が華やかな生活を送った。今は洋風の街並みが人気の観光地だが、旧日本領事館だけは、さながら幽霊屋敷だった。

 アヘン戦争で負けた清国は、上海や広東省広州などとともにアモイの開港を強いられた。租界となったのがコロンス島だった。第二次大戦後、地元の中国人が住み着いた建物もあるが、歴史的建造物は文化財として保護され、公開されている。

 早朝のフェリーで島に渡った。看板のある米国などの領事館跡と違い、日本は何の案内もない。地元住民に尋ねると、「あんなところに行くのか」と露骨にまゆをひそめた。

 たどり着いた建物の正面には、小さく「日本領事館旧跡」の石板があるのみ。玄関にはごみが積まれ、落書きの痕跡も多い。離れには、勝手に住み着いたとみられる物売りが暮らしていた。

 裏手に回ると、立派な石碑に朱色で「日本帝国主義の地下監獄」とあった。反日教育のためなのだろう。石碑の裏には「抗日戦争当時、無罪の民が迫害された」「侵略の罪の証しだ」と強調されていた。

 建物は、中国政府と福建省政府の重点保護施設に指定されているという。 (今村太郎)