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バンコク 催涙ガスにも負けず

2014年02月20日

 催涙ガスでやられるのは目だけではなかった。トウガラシを口、顔に塗りたくられたような感覚だった。

 バンコクで、反政府デモ隊が首相府の占拠に向け動きだした1日、現場は演説のがなり声とセミが一斉に鳴きだしたような笛の音が混じり合っていた。

 そんな喧噪(けんそう)を「ドーン」という音が切り裂く。白煙が上ってしばらくすると、目の周りがひりひりしてきた。「これが催涙ガスか」。準備していたせいか、すぐに逃げ道を確保できた。さほど被害は受けずに済んだ。

 別の場所へ移動していると、突然涙があふれてきた。白煙は見えない。どうやら、催涙弾が風に乗ってきたようだ。

 タオルを目に当てても止まらない。逃れようと次第に足早になる。すると、なぜか、見知らぬタイ人が何人も伴走してペットボトルの水をタオルに次々と掛けてくれた。水を含むと少しはましだ。「いつもはおっとりしているタイ人なのに」。機敏な対応に感心していると、今度は顔じゅうが痛くなってきた。

 デモが繰り返されている国とあって、立体マスクとゴーグルで防御する人が目立った。タオルで顔を隠すだけの人は“デモの素人”ということか。驚いたのは逃げる途中、屋台で麺類をすする家族がいたこと。このたくましさは見習いたい。 (伊東誠)