2014年06月09日
どの若者もそこで、カラカラに渇いた心を潤しているかのようだった。「真実を口にするのは自殺するようなもの、流れに逆らい歩くことさ-」。息苦しさを叫ぶ歌が、響き渡った。
エジプトの首都カイロで、絶大な人気を集める社会派ロックバンド「カイロキー」のコンサートに出掛けた。詰め掛けた客の大半は10~20代だろう。
最新曲の一つは「踊っている人もいれば、死にかけた人もいる」と抑圧や不条理を歌う。
3年余前、強権的なムバラク政権を崩壊させたデモの中心は、若者だった。それが今、軍主導の暫定政権下、デモさえ規制され、違反者は逮捕される。
民主化デモの象徴的な活動家の一人だった元歯科医師ハラーラさん(34)と喫茶店で会った。
2011年、反政権デモで相次いで両目を失明。政治活動からしばらく遠ざかっているのが、ずっと気になっていた。
八方ふさがりの民主化運動に未来はあるか。きつい質問をぶつけると答えた。「長い時がかかる。でも私は挑戦するよ」
突然、左目に指を入れ、くるっと回した白い義眼の裏に「自由」と記されていた。この国はまだ、希望がある。 (今村実)