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珍島 惨事の海 消えた日常

2014年07月06日

 6人乗りの釣り船で港を出て50分ほど。いつの間にか、潮の香りが油のにおいに変わっていた。目の当たりにする韓国・珍島(チンド)沖のフェリー沈没事故の救助現場は、まるで戦場のようだった。

 軍の艦艇や海洋警察のボート、クレーン船、漁船など、数え切れない数の船舶が海面と水中をくまなく捜索する。頭上を飛び交うヘリコプターや小型機。事故発生から6日目の現場は、何としても生存者を救出しようとの緊張感が張り詰めていた。望遠レンズ越しに見た潜水士らのこわばった表情が忘れられない。

 事故の半月前、島は「神秘の海割れ」を一目見ようと訪れた観光客でにぎわっていた。海割れとは、干潮で海の中に道が現れ、珍島の海岸と別の小島がつながる自然現象。海鮮食堂の女性主人は「お客さんが1日に300人も来た」と振り返ったが、事故後は客足が遠のいたという。

 近くで起きた惨事で、島の日常から本来の明るさが失われたようにみえた。不明者の捜索や船の引き揚げなどに区切りがついたら、あらためて訪れ、釣り船の船長や食堂の主人から島の暮らしを聞いてみたい。(中村清)