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ベルリン いつか見た独裁の姿

2014年07月12日

 支局の本棚でほこりをかぶっていた一九七八年のベストセラー「ヒトラーとは何か」(セバスチャン・ハフナー著)を読んだ。第二次世界大戦直前のドイツをめぐる状況が、ウクライナ危機をめぐるロシアのそれと似ているのを教えてくれる。

 フランス国境ザール地方の併合が住民投票をへて行われ、オーストリア併合でヒトラーの人気は高まったのと同様、クリミア半島の併合では住民投票があり、プーチン大統領の支持率も急上昇した。二人の指導者が第一次大戦や冷戦での敗北という屈辱から、経済復興をばねに権力を掌握した過程も共通する。

 ロシアは旧ソ連時代から、ナチスを破りファシズムから世界を救ったというのが国家的なプライドだ。対独戦勝記念日の五月九日、プーチン氏は「ナチスを追い詰めて勝利を成し遂げたのは私たちの国だ」と訴えた。

 戦後六十九年。ヒトラーを生んだドイツは世界で最も民主的な国に生まれ変わって久しい。片やナチスを倒したと自負するロシアは独裁的なプーチン氏を頂き、他国の領土をあからさまに侵して恥じるところがない。皮肉な歴史の相似が不気味だ。(宮本隆彦)