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北京 陳情さらに道険しく

2014年09月08日

 地方から北京に陳情に来ている人たちの実情を取材しようと北京の国連機関前に行ったところ、瞬く間に陳情者たちに囲まれた。外国メディア記者と分かった途端、自分たちの陳情を解決してくれるかもしれないとの期待を抱いたのだろう。こちらが質問する間もなく、われ先にと陳情書を手渡された。

 土地の強制収用や警察官の腐敗…。訴えは具体的だが、中国で陳情はめったに受け付けられない。「闇監獄」に収容されることすらある。日本であればメディアが間違いなく取材すると思われる事案でも、中国政府に統制されるメディアが取材に向かうこともない。だから何年も北京に来て、政府などに直接陳情する「上訪」を続ける人が少なくない。

 しかし、政府は5月から上訪を制限し始めた。陳情を合理的に処理するとの名目だが、陳情者たちの一縷(いちる)の望みすら断ち切られつつある。陳情書を渡す必死のまなざしに、追い込まれた現状が痛いほど伝わってきた。力になりたいが、外国メディアとして個別の事案に関わることは難しいという現実もある。しわしわになった陳情書の山がズシリと重かった。(佐藤大)