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バンコク 下手でも歌う胸中は

2014年10月08日

 雑踏で、目の不自由な人がカラオケに乗せて朗々と歌っていると、その歌声に振り向いてしまうほど感動する時がある。それに比べ、路上で演奏するどの若者もうまくない。多少楽器演奏の経験がある身としては気になって仕方がない。

 有数のビジネス街シーロムでヌンさんは毎日6時間歌っている。来年から北京に留学するための生活費を稼ぎたいから。ところが、ギター技術はもちろん、それをカバーする歌唱力があるわけではない。

 率直に感想を述べると「ギターを始めてたった2年だから。でも、タイ語で歌うと観光客は喜ぶんだ」。演奏にけちをつけられたと怒るわけでない。

 こちらが日本人と分かると「昴(すばる)」を歌い始めた。「母が昔、日本の航空会社の客室乗務員でこの歌が好きで」。サービス精神は旺盛だが…。

 他のアルバイトは考えなかったのかと問うと「1日で多いと600バーツ(約2000円)入り、他のバイトと同じくらい。上の人から怒られないし、気楽だし」。下手な歌声を聴かせて恥ずかしいとは思わない。気楽だからやるとは。思わず説教したくなった。 (伊東誠)