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ライプチヒ 壁崩壊の立役者健在

2014年11月29日

 広場を埋めた数万人の市民から、ドイツやポーランドの現職大統領ら誰よりも大きな拍手と歓声があがったのは、ドイツのゲンシャー元外相(87)だった。夜風が少し冷たい。お歴々の中で1人だけ背広の下に薄いレモン色のセーターを着込んだ姿がいかにも「おじいちゃん」といった雰囲気を醸し出す。

 ドイツ東部ライプチヒで10月上旬にあった「月曜デモ」の25周年式典。デモは1989年の9月から毎週月曜日に行われ、11月9日のベルリンの壁崩壊を導いた。

 ゲンシャー氏はライプチヒに近いハレ近郊で生まれ、25歳で旧東独から西へ亡命。弁護士をへて政治家となり、統一時を含め計18年も外相を務めた。壁崩壊の少し前、チェコの旧西独大使館バルコニーから、庭にあふれた旧東独の亡命希望者に「西に行ける」と告げたシーンは有名だ。

 当時の東独市民に彼の姿はどれほど頼もしく見えただろう。あの時と同じように、老政治家は夜風の中で手を振って歓声に応える。自由を求めてもがいた人びとと、思いに応えた者の素朴な連帯が、なんだかうらやましかった。(宮本隆彦)