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バンコク スラムの星 憧れの的

2015年03月05日

 バンコク最大級のスラム街クロントイで1月、子どもたちに食事やお菓子をふるまう楽しいイベントが開かれた。

 子どもを励ましに来ていた公務員のシリラック・チョチャンさん(29)はそんな子たちの憧れの的だ。このスラムに育ち、母が営む小さなクリーニング店を手伝い、家計を助けてきた。

 幸運だったのは小学校から奨学金をもらえたこと。「父親がいなくて2人きりでも、寂しいと思わなかった。母が父代わりで、友達だったから」。もっと幸運だったのは、そんな豊かな愛情に育まれたことだ。

 オランダに7年間留学。公衆衛生を学び、昨年難関の公務員試験を突破した。「サボる? 怠ける? そんな時間はなかったわ」とサラリと言う。怠け癖のある記者は、ただただ頭が下がるばかり。

 現在の勤務先は深南部のヤラー県。深南部3県はテロが頻発し、11年間で数1000人が死亡する、非常に危険な地域だ。

 「快く送り出してくれた母に感謝したい。危険な場所だから行政の力を頼りにしている人が多いはず」。子どもたちの元気な声が飛び交う中、思わず、居ずまいを正した。 (伊東誠)