2015年06月08日
「あんたのかばんが、さっきからずっと俺の腹にぶつかってるんだよ」
地下鉄で帰宅途中、黒人の男性に声を掛けられた。「いや、失礼」と答えると、「どうやらロンドンは来たばかりのようだな」。大きなかばんを肩から下げ、どこか落ち着きのないしぐさが新参者と見えたに違いない。赴任して約1カ月。ご明察である。
その後、降車駅まで10分ほど、会話を交わした。男性は4年前、エチオピアから英国に移住したという。「エチオピアは政治的にも経済的にも問題があるからな」。どうやら同国から逃れてきたらしい。
英国は最近、移民流入の規制を強めつつある。そんな英国に男性は「米国を見ろ。大統領が黒人じゃないか。移民が国を大きくしたんだ。英国は米国に次ぐ国なんじゃないのかい」。
電車を降りた後、車窓から笑顔で手を振る男性を見ながら、ふと考えた。電車はさして混んでおらず、かばんがぶつかっただけなら、よければ済む話である。どこか不安げな新参者のアジア人。その姿が4年前の自分に重なって見えたのかもしれない。(岩佐和也)