2015年06月29日
19世紀前半の米国、多くの黒人奴隷が自由を求めて、この川を渡った。イリノイ州からペンシルベニア州に流れるオハイオ川。奴隷制が廃止されるまでは、奴隷州のケンタッキー州と自由州のオハイオ州を隔てる境界線だった。
逃亡を助けたのが「地下鉄道」と呼ばれる組織。「車掌」と呼ばれる活動家が奴隷州から「乗客」の黒人を連れて、奴隷主からかくまってくれる協力者の家を指す「駅」を転々とした。
昼間は身を潜め、夜、北極星の方向を目指して道なき道を20キロほど走った。自由を手にする直前、最後に渡ったのが、この川だった。
オハイオ州シンシナティにある地下鉄道博物館を訪ねた。展示の紹介をしてくれた黒人の職員は「今も理不尽な差別を受けるが、川岸に立つと、あの時代に生まれなくて幸運だったと思う」と漏らした。
「あの時代」のゆがみは今もアメリカの社会を覆っている。「これを正すには、ゆがんだ時よりずっと長い時間がかかる」。彼の表情が印象的だった。白人の職員がいたら、この歴史をどんな言葉で語るのか、聞いてみたかった。 (北島忠輔)