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マケドニア・ベレス 難民と自転車と日常

2015年07月17日

 何日も体や服を洗っていないのだろう、異臭がした。握手したその手はベトついていた。目の奥には不安があった。

 バルカン半島のマケドニア中部ベレスで6月中旬、戦火のシリアを逃れ、陸路でドイツなどを目指す難民に話を聞いた。マケドニアは当時、難民に公共交通の利用を認めておらず、町外れの高速道路や一般道を自転車の難民が次々と北上していた。

 自転車はギリシャとの国境の町で2万円余りで買ったのだという。明日をも知れぬ彼らには大きすぎる出費だろう。「法外な値段だ」と不満が口をつく。警官ややくざ者にいじめられるとおびえている者もいた。

 その脇を派手なタンクトップのマケドニア人女性や、レース服の中年男性の自転車が走り抜けていく。人生を懸け命の危険を冒してペダルをこぐ難民と、ダイエットや健康づくりにいそしむ市民。これほどまでに断絶した世界が一つの視界に収まった記憶は私にはない。

 一方でマケドニア市民が水や食料を渡すなど難民に手を差し伸べる姿を見た。危機との間に断絶を生じさせるかどうかは結局、日常の側にいる私たち次第なのだろう。 (宮本隆彦)