2015年10月29日
列車が駅に着いたのは午後11時すぎ。周囲はすっかり静まり返っていた。
セルビア国境に近いハンガリー南部のセゲドを訪れた時のこと。ブダペストからの列車の中で、ホテルのネット予約を試みた。いったん受け付けられたもののキャンセル連絡が入ることが続き、宿泊先が見つからないままセゲド到着。列車内からいくつかのホテルに電話してみたが「深夜の客は受け入れられない」とにべもない。
どうやらこの街の宿泊施設は午後10時以降の客は受け入れないらしい。同じ列車を降りた地元の住民であろう人たちが次々と暗い夜道に消えていく。「どうしたものか」。途方に暮れていると後ろから声が聞こえた。「泊まる所がないんだったな」。列車内で少しばかり会話を交わしていた男性だった。
「一緒に行こう」。男性が車で市内のホテルを回ってくれた。次々と断られ、ようやく泊まる場所が見つかったときは既に日付は変わっていた。「良かったな」。握手を交わすと、そのまま夜道に消えていった男性。何かお礼をしたかったのだが。それができなかったことが心残りとなった。 (岩佐和也)