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米ロスアラモス 近づけぬ原爆生誕地

2016年02月14日

 米国が第二次世界大戦中に原子爆弾を製造したニューメキシコ州のロスアラモス研究所は標高2,200メートルにある。昨年11月に国立歴史公園に指定されたのを機に訪れたが、峡谷と厳重な警備で隔絶された原爆生誕の地には近づけなかった。

 市街地にある博物館のガイドが「当時の研究所には、原爆製造に反対だった人もいた」と説明していた。だが研究は進み、1945年7月16日に世界初の原爆実験に成功した。

 そのころ、別の核研究者ら60人余りがトルーマン大統領にあてた請願書に署名した。「ひとたび原爆製造に成功すれば、世界は核武装競争の時代に入る」と懸念を示す内容だった。

 ところが、その請願書はロスアラモスに留め置かれ、回覧も禁止された。大統領の元に届かないまま原爆は投下された。

 研究者らの予言は的中した。核時代の扉を開けた世界は今、軍縮の道筋を描けないでいる。昨年の世論調査で62%が「原爆開発は悪いこと」と答えるなど原爆観は変わりつつある。国立公園として、歴史をどう伝えていくか。都合の悪い事実や主張を遠ざけることだけはしてほしくない。 (北島忠輔)