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ワシントン 芸術を鑑賞するネコ

2016年06月09日

 ポトマック河畔に立つ芸術の殿堂、ケネディ・センター。ミュージカルを楽しむために座ったホールの2階席頭上の天井裏に、かつて1匹の野良猫が出没していたことを知った。1971年のセンター開館前から、建設現場にすみ着いていたようだ。

 ネコの鑑賞眼は優れていた。出来の良い演奏には「ニャオ」と称賛を惜しまず、出来が悪いと「ウーッ」とうなり声を上げて出演者を震え上がらせた、という伝説を残した。

 灰色の大きなネコで、頭も良かった。センターは捕獲を何度も試みたが、捕まることはなかった。その神出鬼没ぶりから、付いた名は「モスビー」。南北戦争でゲリラ戦を得意とした南軍の英雄で「灰色の幽霊」の異名をとって北軍に恐れられたジョン・モスビー大佐がその名の由来だ。

 モスビーを題材にした児童本をセンターの売店で見つけた。「こんなネコはもういないの」と店員に尋ねると、「いないんだよ。でもね、これは素晴らしいメルヘンだよ」と残念そうな顔をした。

 昨今、そんなメルヘンが少なくなった。(青木睦)