2016年07月12日

　果てしなく広がる綿花畑。旧型車が砂ぼこりを上げて走る荒れた道が続く。そんなイメージとともに少しの野心を抱いて、米南部ミシシッピ州のクラークスデールへ車を走らせた。

　毎年、音楽祭が開かれるブルースの街。巨匠ロバート・ジョンソンが「悪魔に魂を売り、誰よりも上手に弾けるギターのテクニックを手に入れた」という伝説の交差点がある。

　そこで悪魔と取引すれば、誰もがうなる文章が書けるようになるかもしれない。悪魔に魂を売った自分とは・・・。空想を楽しんでいるうちに、交差点に着いた。目にした光景は、想像とは違っていた。

　整備された幹線道路。角にはバーベキューやフライドチキンのレストラン。どうも悪魔と話をする雰囲気ではない。

　首をかしげながら写真を撮っていると、黒人の若者がニヤニヤして眺めていた。「いいことを教えてやるよ。その話は彼の死後に作られたんだ。現実はそんなにうまくいかない」

　うまくいかない日常を歌うのがブルース。新聞記者もしかり。上手な文章は書けなくても、「現実を直視せよ」と交差点が教えてくれた。　（北島忠輔）