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サンフランシスコ 日本街のカレーの味

2016年07月28日

 「日本街」との表示、日本語で書かれた看板に五重の塔。通りにはすし屋やラーメン店が立ち並ぶ。米サンフランシスコの日本人街は、西海岸の風と青い空に、和風の建物が思いのほか融合している。1900年代に日本を出た人たちが根差し、重ねた歴史のたまものだろう。

 商店街の一角にあるカレー店「オン・ザ・ブリッジ」に入った。カツカレーを口に運び、思わず「こりゃうまい」と日本語が出た。その声が届いたのか、厨房(ちゅうぼう)から店長の中村充裕さんが顔を出した。

 「日本人なら、この味の複雑さ、分かるよね。3日も煮込んでるんだよ」。おっしゃるとおり、肉のとろみと幾重ものスパイスが口の中で広がる。

 こだわりの風味を楽しめる店はしかし、付近で減ってきたという。「その代わり、中国や韓国の人が『元禄寿司(すし)』とか看板を出して店をやってるね」

 古参の日本人経営者は引退したり日本に戻り始めているという。立ち並ぶ日本語の看板も、のれんをくぐれば異国の経営者という場合が。「日本人にも元気を出してほしいよ」。切なる思い。カツカレーの味が深みを増した。 (石川智規)