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パリ 緊張感 水位とともに

2016年08月04日

 セーヌ川に架かる橋から見下ろすと、悠々と流れるいつものたたずまいとはまったく違っていた。市民が散歩をしたり、会話したりしてゆったり時を過ごす川岸は、どす黒い濁流にのみ込まれていた。

 5月末から仏中部に続いた長雨は各地で洪水を引き起こし、影響はパリにも及んだ。6月初めには浸水被害を避けるため、ルーブルやオルセー美術館が閉館し、美術品を安全な場所に移転。一部の鉄道が運休、川の近くの道路が通行止めになるなど生活にも影響が出ていた。

 「100年に一度、起きる」といわれるパリの洪水。セーヌがあふれ、中心部が水没する大水害に見舞われたのは1910年のこと。人々が舟で行き交い、国民議会やエッフェル塔などの周囲も水没。当時の写真や映像が伝える花の都の異様な姿は今見ても衝撃だ。

 ひたひたと増水していくセーヌ。様子を見るため、数日の間毎日、川岸に足を運んだ。あの100年前の光景が繰り返されてしまうのか-。緊張がしばらく続いたが、氾濫はまぬがれた。セーヌの水位は徐々に下がり、いつもの美しい姿を取り戻していった。 (渡辺泰之)