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釜山 異なる立場許す世に

2016年09月14日

 黙とうをささげない男性が1人いた。韓国・釜山にある国連記念公園。朝鮮戦争で戦死した国連軍の兵士が眠る墓地を訪れた時のことだ。

 17カ国、4万人以上の国連軍兵士が死亡した。最年少は17歳のオーストラリア兵。このうち2300人が墓地にまつられ、石碑には「共産主義の侵略から韓国を守った尊い犠牲者」と書かれている。

 黙とうしなかったのはロシア人記者だった。「亡くなった人は気の毒に思う」としつつも、当時の敵兵をたたえる気持ちにはなれなかったという。

 自分たちにとっての英雄が、他人にとっては許せない敵になることはよくある。複雑な歴史が絡んでくればなおさらだ。彼は「人や国により物事の見方は異なる。いろいろな立場を認め合えればいい」と言った。

 その考えに共感しながら酒を酌み交わす中で、話題がプーチン大統領の好き嫌いになった。彼は黙って苦笑い。「嫌いとは言いにくい?」「いや、別に言えなくはないと思うが・・・」と言葉を濁す。

 いろいろな立場が認められにくい国で、先の言葉は切実な願いなのでは、と想像した。(上野実輝彦)