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ホーチミン 優しさは人から人へ

2016年09月13日

 「宝くじ売り、シクロ(三輪自転車)運転手、目の不自由な人は無料で修理します」

 ベトナム最大の都市ホーチミンの下町に、こんな看板を掲げる靴の修理職人がいる。

 掲げているのはトゥアンさん(41)。21年前、靴をはきつぶして歩く宝くじ売りの人、汗だくで懸命にペダルをこぐ運転手らをよく見かけ、何か役に立とうと思い立った。

 靴の修理は高い場合で10万ドン(約500円)。1日の客は10人ほど。評判を聞き付け、多いと1日3人が無料客。「生活は苦しいけど、ありがとう、と言われるとうれしい」

 3年前から近所のウェーバンさん(19)に技術を教えている。「一番教えているのは人として役立つこと」とトゥアンさん。ウェーバンさんも「まだ、かかとの修理はできないけど、早く一人前になって苦しい人を助けたい」と声を弾ませる。

 周りの人も、話を聞いている私にいすを勧めたり、すごく親切。トゥアンさんの気持ちが乗り移ったようだ。

 トゥアンさんに希望を尋ねると「もっとお客さんに来てもらい、ほんのもう少しでいいから豊かになりたい」。(伊東誠)