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モスクワ 観光増で遠のくもの

2016年11月17日

 旧知のロシア人、イーゴリさん(57)と会った。夏休みのバカンスをウクライナ南部のクリミア半島で過ごしたという。

 ロシアが2年半前に一方的に併合したとはいえ「それは国際ルールに反して・・・」と指摘しても始まらない。「クリミアの住民が、ロシアに統合してほしいと決めたのだ」などと反論されるのがオチ。このときも、とりあえず黙って聞いていた。

 スマートフォンを取り出し、丸い顔をほころばせ、息子と海辺ではしゃぐ動画を見せてくれる。彼はウクライナで少年時代を過ごしたが、ソ連崩壊後、クリミアから足が遠のいていた。2年前から年一度通う。「行きやすくなって、うれしいよ」

 8月末、ロシア外務省のザハロワ報道官が定例会見で、ある欧米メディアに抗議した。クリミアの観光客が激減しているという報道だ。「事実とは違う。毎年増えているし、ことしも現時点で400万人が訪れた」と気色ばんだ。

 政府の呼び掛けで、ロシア人の観光客が増えるほど、問題解決は遠のく。「アキラも来年は一緒に行こうか」。上機嫌で帰って行く背中を、複雑な思いで見送った。 (栗田晃)